マンパワーで苦労しているエンジニアは観るんだ!「ひるね姫 ~知らないワタシの物語~」を観てきました【感想・レビュー】

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カミキユキ(@KamikiYuki)です。 
3月のライオンにつづいてはしごしてきました。
続いてひるね姫ですよ。

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高校生の森川ココネは家でも学校でも常に眠気に襲われ、ついウトウトと居眠りばかりしていた。2020年、東京オリンピックが間近に迫った夏の日、彼女の家族は事件に見舞われる。実は両親にはココネも知らない秘密があり、その謎を解く鍵は彼女の夢の中にあった。

- シネマトゥデイ -

攻殻機動隊東のエデンなどを手がけた神山健治監督作品。
ファンタジー作品で言うと精霊の守り人
過去押井守主宰の押井塾に参加し、ミニパトで初監督。
TVアニメでは攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXを初監督、
のちのシリーズでも高い評価を得ている。また、これ以降脚本も手がける。

音楽は下村陽子
昨年FINAL FANTASY XVの音楽を担当。他、数々のゲーム作品の音楽を手がける。
カプコン時代はストリートファイターⅡスクウェア時代はスーパーマリオRPGスクウェアエニックス時代ではキングダムハーツ。以降フリーとして活動。
映画ではKINGS GLAIVE FINAL FANTASY XVに続き2作目。 

主人公森川ココネ役に高畑充希
怒りでは東京編の役、植物図鑑 運命の恋、ひろいましたでは主演で河野さやかアズミ・ハルコは行方不明木南愛菜を演じる。
様々なドラマ、CMで活躍する一方、歌手としても活動しており、
本作でもEDテーマ「デイ・ドリーム・ビリーバー」を歌っている。

モリオ役に満島真之介
風俗行ったら人生変わったwwwで主演、遼太郎
TVアニメでは僕だけがいない街藤沼悟(大人)を演じる。

ココネの父親、森川モモタロー役に江口洋介
実写版るろうに剣心斉藤一役、天空の蜂では湯原役、
人生の約束では渡辺鉄也を演じる。

他、渡辺一郎役に古田新太、ジョイ役に釘宮理恵、佐渡役に高木渉、雉田役に前野朋哉、森川イクミ役に清水理彩、志島一心に高橋英樹など出演。

 

 

 

面白い記事を見つけたので抜粋。

www.webcg.net

 

 

前情報はこれくらいにして
感想の方へ行ってみましょう。

 

 

田舎の女子高生のちょっとした行動力で世界は変わる

観る前はどうしてもこのココネというキャラクターが好きになれなかった
なんだ、このアヒル口っぽい表情で見た目地味だけどチャラそうなのは...。

と思いきや登場してからというもの、
起きて寝坊の心配のあとは仕事をしている父親に声をかけ、朝ご飯を作り、戻ってきた父親にも片付けの催促をさせて一緒にご飯を食べ、お代の代わりに野菜を貰う商売っ気のない父親を心配する。

これを映像で観ているとココネという人物、どれだけ女子力が高いのだろう。
むしろもう奥さんなんじゃないかってくらいだ。
学校ではなかなか抜けている部分もあるようだが
気付けば次第に好感の持てるキャラクターに変化していた。
尻に敷かれる懸念以外は理想的な奥さんだな...。

そんな彼女が父親譲りの決断力、行動力
個人経営の車修理屋車の大企業に立ち向かっていく。
そこで分かってくるのは現在の日本のかつての栄光に固執した企業体質
そして働き方。
世界から観た立場。
社会情勢から垣間見える日本の姿が現れる

面白いのは現実と夢を行き来しながら物語が進みます。
ココネ昼寝が得意?でよく眠ってしまうのですが、同じ夢ばかり観ます。
これから起こる出来事と自身の過去に繋がっていくことなど知らずに。

父親の逮捕と共に森川家に訪れる謎の男
そこから始まる託されたタブレットを巡るロードムービー。

 

 

 

...ごめん、ココネが可愛く見えてきた。

もちろん、夢の中のココネそっくりの姫、エンシェン
お転婆モモタローそっくりのピーチを振り回したり、
思い立ったら飛び出していく行動力はそのまま。
一つ一つのしぐさが愛らしい

だけど、このエンシェン、実は...

これはタイトル詐欺か?まさに知る由もないワタシの物語

神山健治監督作品であること以外は前情報なしのつもりで観に来ました。
実際先の記事は読んじゃったわけですが。
予告編観てこれは未来が舞台で女子高生の夢と現実が繋がるファンタジー映画なんだーみたいな先入観で観てしまうととんでもないことになります。

一言でいうと「自動車の自動運転という転換期と機械化か自動化かを巡る物語」です。

現実世界ではココネの父親モモタローが持つタブレット
それを巡って倉敷の田舎修理屋と自動車の大企業がやりあう
一方、ココネの夢の世界であるハートランドでは国をあげての自動車産業が基盤になっており、時給制で城の工場で働く。シフト制でみな車で工場に向かうので毎日が車で渋滞遅刻すれば減給定期的に車を買い替えなければならず、歯向かえば減給。王の娘である姫はエンシェンといい魔法が使えると異端視されている。魔法と言っても、タブレットで命令するプログラムのようなもの。技術を知らない者からしたら魔法に変わりないだろう。それを異端視して使わせずマンパワーで仕事をさせているのだ。

現実世界でも同様に自動車の自動運転の是非を問うシーンがあります。
昨今でも自動運転の話題は出て来ていますが、ここでは「車はドライバーが運転するものであり、ハード屋がソフト屋に頭を下げるようなことがあれば車作りの終焉だ」という話もなります。
今の40~50代の人は車がステータスの時代を生きているので思うわけですよね。個人的には両者共にメリットデメリット浮かぶわけですが。

とまぁ、そんな感じで自動車産業を例に未来の技術や働き方を問う作品となっているわけです。

ここにココネの夢がどう関連してくるんだ?
と思われるのは必然ですね。
単純に未来の自動車産業の現実世界を描いても面白くないのでこういう織り交ぜ方をしたと思います。そもそも内容以前に親が子どもに物語を聴かせるという神山監督の個人的な話題から広がった企画と聞いています。
現実世界の問題を物語に置き換えた世界がココネの夢の話と捉えてもらえると分かりやすいと思います。だから、現実世界に登場する人物が同じような立場で夢の世界に登場します。

本当は尾道の予定だった?どうして舞台は岡山になったのか

この作品随所にが出てくるんですよね。
瀬戸大橋しかり、終盤はレインボーブリッジしかり...
おそらく橋を一つのランドマークとして描くのは条件の一つにあった。

だけど舞台設定的に岡山である必要はなかったんですよ。
特別岡山の何、というわけでもないので...まぁプロット上、岡山じゃないと成立しない地理的問題は起こったかもしれませんが...。

「舞台の下津井は、ロケハンで尾道に行く流れで見つけたんです。古い町並みや瀬戸内の波のない海と、瀬戸大橋とのコントラストがすごくて。港町に橋がドンとあって、すごい異物感なんです。あと、海が陽の光をすごく反射して、日本らしからぬ光量で。そこから、光量のある画にしようという意識が生まれましたね。」

神山健治

natalie.mu

広島県って戦争絡みとかだと広島市内だとか呉市を舞台にしますが、
その他の舞台で多いのは尾道ですね。
あの情緒溢れる街並みは様々な作品で使用されます。 

そこを外して画の表現的に魅力的だった場所を選択した。
これは実写にしろアニメにしろ画作りの観点では大きな意味がありますよね。特にアニメという虚像の世界で実像の世界の嘘のない景色というのは本物っぽく魅せるという意味が確かに存在する。

 

神山監督作品のオマージュたち

ハーツはタチコマだよね

現実世界でモモタローが改造しているサイドカー付きバイク
夢の世界では魔法のタブレットでロボットに変形するんだよね...。
コヤマシゲトデザインだけどどことなく攻殻機動隊のタチコマを連想する。

コヤマシゲトからするとむしろベイマックスか。

タブレットはノブレス携帯?

現実世界でココネがタブレットに「おなかすいた、弁当食べたい」と記述すると
駅員さんが支払済だからと弁当をくれるなど、願望を書くと可能な範囲で叶う。
これは東のエデンセレソンたちが持つ100億円電子マネーの入ったノブレス携帯による願いの叶え方に酷似している。

ターゲットは誰なのか、それが問題だ。

本作は神山監督作品の中では一番対象年齢が低い作品だと思う。
おそらく監督自身も子どもに読み聞かせる物語風にベースは練っていると思われる。そこに大人も観れる要素や神山監督作品ならではの要素を組み込んで作って行ったように思う。ただ大人も子どもも観れる作品とは少し違う印象だ。

大人も子どもも観れる作品というとズートピアを連想する。
あれは完全に現実と切り離して作っている中に社会風刺ともとれる要素を組み込んでいる。いわば単純に現実とはなんら関係のない物語と捉えて観ることの出来る作品だ。子どもの作品に大人を寄り添わせている
ひるね姫はそれに反して、現実世界の事情を前提としたストーリーだ。今から3年もすれば車の自動運転を売りに出来そう、それは子ども達の未来だ。この先こういう事情が孕んでくるかもしれないぞ、とばかりに大人な作品に子どもを寄り添わせている
だからファンタジー要素でその世界の主人公は幼子なのである。

こういう社会的な問題を組み込んで行くのが神山健治スタイルである。
ただその為にこんなタイトルなのだろうが、結局神山監督ファンが集まって来ていて、あとは知らないけどファンタジー面白そうで観に来た人たちだ。
観てみれば、昼寝の設定はそんなものもあったねレベルになる。
そしてどうしても神山監督がやりたかっただけ、とも捉えられてしまうのだ。

 

とはいえ、現在の仕事をやっていると思うところはあるし、
現実を置き換えた夢の世界の解釈もなかなか楽しいので十分楽しめた。
というかかなりの好みの問題である。
とりあえず神山健治監督作品好きならまぁ満足するんじゃないかな?

 

振り返ってみるとこの映画やばいな。

この作品、夢の中で起こっていた間の出来事が
現実ではスポっと抜け落ちているんですね。
結果的に夢で起こっていたことが現実に繋がっているように世界が続いていく。
上手いタイミングで夢と現実が切り替わるところもミソ。
そして両者に登場するタブレットやサイドカーというガジェット
夢を現実にするツールとして作用する。

...やばいぞ。

これ捉え方を変えるだけでよくこんなこと考えたなと思ってしまう。
作り手視点の人は好きになるな、これ。

うん、エンジニアだけでなくてクリエイターに観て欲しい作品。

 

満足度:★☆☆(8/10)