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責任と敵意の所在を問う「ヒトラーの忘れもの」を観てきました【感想・レビュー】

映画 映画-洋画 レビュー 劇場鑑賞

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カミキユキ(@KamikiYuki)です。 
広島でもやっと公開されました。
しかし観たいの多くて大変ですよ、と。

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ナチスドイツが降伏した後の1945年5月、デンマークの海岸にドイツ軍が埋めた地雷を撤去するため、ドイツ兵の捕虜が投入される。まだ幼さの残る10代の少年兵たちを監督するデンマーク軍軍曹ラスムスン(ローランド・ムーラー)は、徹底して彼らをこき使おうとする。だが、少年兵たちは誤爆や撤去作業の失敗で次々と命を落とし……。

- シネマトゥデイ -

本作はデンマークとドイツの共同制作。
原題をUnder Sanded(Land of Mine)
土の下でと訳されるわけですけど
副題は地雷ですよね。
さすがにこのタイトルだと日本人には響かないと判断して
邦題は「ヒトラーの忘れもの」
この手の作品は日本人にはヒトラーのという言葉は強いね。
まぁナチスドイツの置き土産を指すにはちょうど良い言葉でしょうか。
「ヒトラーでてくるの!?」と期待する人は、言っておきます。

 

ヒトラーは出てきません。

 

観たい人はこっちみてください

...あ、帰ってきたヒトラーのレビュー結局書いてなかったんだった。

監督はマーチン・サントフリート
日本ではほぼ知られていないようですが本作で監督作品3作目。
初監督を務めた02年、Angels of Brooklynがロバート賞(デンマーク・アカデミー賞)最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞。09年、Applauseで長編監督デビュー。
待機作にジャレッド・レトー浅野忠信が出演するThe OutSider

メインキャストに少年兵を監督するデンマーク軍曹ラスムスンローラン・ムラ。少年兵にはセバスチャン・シューマンにルイス・ホフマン。ヘルムート・モアバッハにジョエル・バズマン。エルンスト・レスナーにエーミール・ベルトン、ヴェルナー・レスナーにオスカー・ベルトンの双子。他7名。

 

まずは予備知識として知っておいた方が良いところを書いておきます。

ナチス・ドイツ

まぁ第二次大戦中としたら言葉は知っていると思います。
当時はアドルフ・ヒトラーナチ党が筆頭にドイツの独裁政治が行われていました。
ホロコーストなどユダヤ人の迫害と残虐的行為を行っていました。
占領したデンマークでは西海岸に連合国の侵入を防ぐ為に地雷を設置していました。
1945年5月に降伏、ドイツ軍は占領したデンマークから撤退しました。

ホロコーストをテーマとした作品はこちら

ジュネーヴ条約

これは捕虜の扱いに関する条約で赤十字国際委員会が1864年に
「戦争時の捕虜に対する扱いを人道的にする必要がある」と提唱して定めたもの。本作においてはデンマークが戦争捕虜の強制労働の禁を破って捕虜であるドイツ兵に対して地雷撤去を命じています。

少年兵

地雷撤去を命じられたドイツ兵はほぼ少年兵だったといいます。
なお、本作はその史実を元に描いていますが、プロットに関してはフィクションです。

 

 

 

ぼくたちは少年兵と共に心臓脈打つ危険地帯に放り込まれた

まず、ラスムスン軍曹ですが
敵国であるドイツ兵に大きな嫌悪感を抱いています。
冒頭で撤退するドイツ兵に対して顔が潰れるまで殴り、足早に撤退する者には「歩け!さっさと消えろ」とばかりに罵倒します。そうまでに嫌うドイツ兵。
彼の人となりが印象づけられるシーンでした。
しかし、あの殴られたドイツ兵、殴る度に血みどろになり潰れていくんですけどこれ、マジで殴ってはいないんだよな。最近の技術はすげーなぁ...

クレジットでも人間や動物に危害を加えていない
とありどうやって撮ったんだろと思う。
ここばかりはなんらカットが割り込んでないので気になる。

 

そして少年兵たちですが、
別の場所で地雷撤去の命を受けて、撤去の訓練を受けます。
最終的に本物の地雷の撤去を強固な壁の部屋で行わされるのですが

ここはすごくドキドキする

一人一人地雷を持って部屋に入り、解除したら持って出てくる
という流れを実際に見せて行くんですけど
一人、また一人と作業していく中で誰か爆発させるんじゃないかと思うわけですよ、観てるこっちも心臓バクバクするわ...。

 

さて、軍曹の元に合流する少年兵たちですが
やっぱり軍曹のドイツ人嫌いははっきりしてますね、寝泊まりする場所を提供してくれた女性もドイツ人嫌いがはっきり出てて少年達はすごくアウェー。
そこからは彼らはまともな食事にありつけないまま地雷撤去に取り組んで行きます。その中で体調を崩す者が現れたり、寝床を抜け出して食料を調達に行く者が現れたりします。そして、地雷で大ケガをする者、死んでしまう者が現れて行き...。

しかし軍曹も次第に彼らに同情の念を抱いて行くことになります。
ドイツとデンマークという友好国でもなければデンマークはドイツを憎んでいるという状況、敵国の兵ながら少年兵相手に戸惑っていく軍曹と、周りから憎まれ同じ境遇同士でも終われば国に帰れるという希望を抱く者と、信じられず絶望している者との確執にも様々な悲劇を呼ぶことになります。

地雷の発見方法って結構アナログなんですね。
棒を使って地面を刺して何か当たれば掘って解除する、それの繰り返し。
これを少年兵にさせていたのか。

死と隣り合わせの地雷原への没入感が半端ない

この作品の特徴は映画舞台への没入感
観ている自分もあの西海岸の地雷原、あの場所にいるような感覚に陥る。
派手なシーンはありません。
しかし、ここぞとばかりに流れる曲が映画の世界に引き込みます。

そして次々死んで行く少年兵ですが
彼ら一人一人にドイツに帰ったら「会社を起こす!」「工場で働く」などどうしたい、という希望を抱いていたり、ない者は「故郷に帰れるわけがない」同じ少年兵に反発する感じでキャラが立っているんですよね。

そんな彼らが一人、また一人と死んで行くことで残された者の感情が揺れ動く。軍曹の行動を変えて行く。敵国という大きな括りを憎むことでその中の一人一人を憎むのは自然な感情ですが、その一人一人が個であることを認識出来ます。終盤で寝床の提供者の女性とその子どものエピソードもその一つです。
それと前後であるレスナー兄弟のシーンも胸を締め付けます。
この二人この作品がデビュー作なんですね、なんてキャスティングなんだ。

戦争の罪と敵意の所在/デンマーク国内でも語られなかった真実。

戦争の敵国同士、それは互いに傷つけ合う故に
ただ国の為に戦った彼らも敵国の人間にとっては自国を脅かす憎むべき敵でしかありませんが、ドイツにおいては非道な行為でより憎しみの念が強いでしょう。
だからとはいえデンマークを同情することが出来ないというのが本作の印象です。先に述べたようにドイツ兵の捕虜に対して強制労働を強いた上にまともな食事にありつけないという状況は国の状況を知らなければ少年兵に同情するくらいです。

強烈だったのは軍曹に不信を抱いた将校
彼がデンマーク兵を連れて寝ていた少年兵に恥ずかしめを受けさせたシーン。
異国人を人と見ていないと思われていたドイツ人と同じように恥辱を与える。
このシーンはどの国でも敵国の兵の扱いにショックが隠せません。

 

軍曹と少年兵の絆にはそれ以上に学ぶことがあります。
それは国という括りで縛られた罪個を尊ぶことでなくなる敵意の所在
国や世代を受け継ぐことはそのまま過去の罪を背負うことになります。
それは大人がやったことでも子どもは望まずとも背負わされる。
しかし、彼らに同様の敵意まで背負ってはいません。
少年兵は軍人であるので一概には言えませんが、
大人と子どもという関係はそれを想起させてくれるしょう。

この映画で彼らの絆は両者に対する敵意をなくしてくれる。

 

 

 

 

明るい出来事なんてなかったらいいのに...
とばかりにその先に悲劇が待っている様は
突然地雷を踏んでしまう驚きと放心感
それが今にも起こるのではないか、と常に気を張ってしまいます。

地味で静かな映画ですが、1カット惜しまず観て欲しい...
そんな作品でした。

 

満足度:★☆☆(8/10)